
No.553 日本企業の新たな“まくあき”の時 ― 日本の株式市場 ② ―
今週の一句
"自社株買い 積み上がるキャッシュ 眺めつつ 次の一手に 踏み出す時か"
自社株買いとは、企業が自社の発行済株式を市場から買い戻す行為を指します。自社株買いを行うと、市場に流通する株式数が減少するため、結果的に株価の安定や上昇の可能性が高まります。ただし、デメリットとしては、自己資本比率の低下や将来の企業成長の阻害、取得株式の処分による株価下落のリスクなどがあり、必ずしもプラス効果ばかりではありません。このようなメリット・デメリットがある中、近年、日本の上場企業の自社株買いの実施額が増加しています。その意味はどこにあるのでしょうか。
近年の自社株買い増加の最大の理由は、2023年3月末に東京証券取引所から上場企業に対して、PBR(株価純資産倍率)1倍割れを始めとするコーポレート・ガバナンス(企業統治)に関する課題に対応を要請する資料が公表されたことに見られるように、企業の余剰資金活用を市場が求める流れにあります。株主還元策としての配当と自社株買いが上場企業にとっての大きな経営課題となっているのです。それまでの日本企業の経営の特徴に、手元のキャッシュ(自己資本)を手厚く持つというものがありました。これは、今後、どのような業務や成長分野に自己資本を活用するかの選択肢を持てる余裕のためということが最大の理由であったと思います。ただし、それが長期に亘り不透明な環境下で余剰資金だけが積み上がり、具体的な行動に出ない企業が数多くあったということなのです。柔軟な発想で今後の成長戦略を描き、そのために自己資本を使うこと、もちろん人的資本への投入も必要でしょう。このように考えると、まるで今年の干支である「乙巳(きのとみ)」の如く、企業が蛇のように脱皮し「再生や変化を繰り返しながら柔軟に発展していく」ことではないでしょうか。ようやく、日本企業に新たな“まくあき”の時が来ていると考える理由はここにもあるのです。
日本企業の日本株買越金額の推移(2015年~2024年)
出所:日本取引所グループのデータを基にあおぞら投信が作成。