No.600 失敗をコントロールする設計 ― 起業家の思考 ②―
今週の一句
七転び 八起きの元気 持ち続け 道なき道を 踏み分けて進め
自分自身の経験から学んだこととして、機関投資家の端くれの立場から、自分のチームで投資を始める時に最初に考えるべきことは「損失限度額はいくらか?」ということなのです。一方、多くの機関投資家の年度計画にあるのは、年間の収益目標が定められて、そのための手段が列記され、それに基づいて実行するというスタイルが通常です。このコーザル(Causal:因果的)論理では、正確な予測と計画が最適化を生むということが前提です。ところが、今日のように予測が難しく先々の変化が多々ある場合は「正しい前提」があること自体がリスクとなるのです。だから、スタート時には“許容可能な損失(Affordable Loss)”という、失っても耐えられる範囲で投資する計画が極めて重要なのです。これが投資のスタートでもあり、起業もまったく同様なのです。
起業を考える際にも、目的を先に定めた方が、企業経営にとっては安定感があって強力な方向性が示されているように感じます。もしも、安定的な市場であり既存の企業自体も安定走行で良いのであれば、このコーザル論理は有効だと言えます。ところが起業する時というのは、市場は安定的どころか、まだ存在しない市場を作る段階では、その規模さえも見えないのです。また頼りにすべき顧客ニーズそのものも曖昧であり、自らが顧客に臨むべきものを提示する創造力が必要とされているのです。さらに競争環境に関しても、道なき道を進んでいくことから、明確な相手が見えているわけでもありません。このような中での船出では、失敗した時の損失コントロールが大切なのです。損失コントロールが出来ていれば、失敗してもまたチャレンジできるので、試行回数が増えてその企業の生存確率が高まるのです。起業とはこのように既存の安定産業のノウハウとは異なる点が多いことを知るべきだと思います。
『時代が変わる時には新たな企業が生まれる』ということは、逆も真なりで『新たな企業が生まれる時には時代が変わる』ということなのだと思います。それまでの企業が、時代の変化をリードできないばかりか、その変化に対応すらできずにいることは、企業そのものがリスクに晒されており、その企業に勤める人々とその家族も含めてリスクへの準備が不足しているという意味なのです。従って企業をリードする経営者には、これだけの重い責任があり、常に将来への準備を怠らないことが求められています。新たな起業から始まり、時代に新風を吹き込む企業が増えることが時代を変えるのだと考えます。
日本におけるスタートアップによる創出GDPの推移
*直接効果とは、スタートアップの経済活動により創出される付加価値を指し、間接波及効果とは、スタートアップに対するサプライヤーの経済活動を指す。
出所:経済産業省「スタートアップ・エコシステムの現状と経済産業省の取り組みについて」(イノベーション・環境局、2025年12月2日)を基にあおぞら投信が作成。