マーケットの見方

No.563 経済的影響と政治的な意図  ― 自由貿易の重要性 ③ ―

今週の一句

"コメ高し 流通止める 人もいて 今後の農業 誰に頼るか"

今回、トランプ米国大統領が主張している関税措置によって、平均実効関税率は約27%と、1903年以来の水準になると予想されます。特に中国に対しては、輸入品に最大145%の関税を課すとしており、一方の中国も125%以上の報復関税を導入するといった状態です。このような関税率の上昇は、さらに時代を遡った19世紀末のマッキンリー関税法(平均実効関税率約25.5%)以来の規模であり、世界恐慌となる1930年代のスムート・ホーリー関税法(平均実効関税率約19.8%)に匹敵するレベルとなっています。このように歴史的にみると、19世紀末から20世紀初頭にかけて、米国は高関税政策を採用して関税を連邦政府の大きな収入源としていましたが、1930年代の世界恐慌を経て、それ以降は自由貿易を促進する方向へと政策転換し、関税率は長期的に低下してきたのです。

それに対して、今回の関税引き上げは第二次世界大戦以降では最大の関税率上昇となり、保護主義的政策への回帰とみられる状態となっています。この政策の意図としては、経済的意図と政治的意図の両方の戦略が重なっていると思われます。これらの戦略については、①コロナ禍で改めてサプライチェーンの課題に対して、国内回帰の発想が世界的に生まれたこと、②中国に対しては、単なる貿易赤字への懸念だけでなく、ハイテク分野やレアメタルといった安全保障に繋がる懸念が強いこと、③カナダ、メキシコの近隣諸国に対しても自動車産業、農業において米国の利益の最大化を主張すること、④すべての輸入品に一律関税(例:10%など)をかけるという全世界的な保護壁を作ること、⑤米国内の労働者階級にあるインフレや雇用不安に対する不満に対して、経済ナショナリズムを強調して支持基盤を固めること、といったことが考えられるかと思います。そして、これらの政策は当然ですが日本にも大きな影響を与えています。例えば、これまで米国の農家はトウモロコシや大豆などを中国へ大量に輸出していましたが、中国からの輸入削減という報復を受けて、特に中西部(アイオワ州、ネブラスカ州)の農家は大打撃を受けました。米政府は補助金支援を行うとともに、Buy American(アメリカの自国製品優先購入政策)を訴え、それに加えて日本、韓国、台湾への輸出拡大も主張しています。現在の日本におけるコメ問題もここに繋がるのです。

このように今回の関税に関する問題提起は、これからの世界秩序にまで大きく影響を与えるものであり、日本の今後の進むべき道をしっかりと考えるべき時なのです。

米国の平均実行関税率の推移(1830年~2025年*)

*2024年は推計値、2025年はトランプ関税を踏まえた予測値。
出所:米国国際貿易委員会のデータおよび各種資料を基にあおぞら投信が作成。

 

 

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