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No.607 見習いの時の大切さ ― エキスパートへの道 ①―
今週の一句
駆け出しは 隣の先輩 見て育つ いつかは自分が 見られる立ち位置
どのような仕事でも、まずは見習いから始まるものです。先輩から教わることには、まず電話のかけ方や面談時の名刺交換、アイスブレイクの話法など様々で、何もわからない新人は、とにかく見よう見まねから入るしかありません。そして電話応対も名刺交換も一回成功すれば、すっかり一人前の気持ちになり、それ以上学ぶことはない、というくらいの大きな気持ちになったりもします。でも実際にはそのようなことはなく、問題はここから始まるのです。電話応対ひとつでも、同じ受け答えで終わることはまずなく、わからないことを聞かれて冷や汗をかく方が多いのです。すなわち、見習いの時は、ひとつひとつの応対がすべて学びの時間であり、この基礎的な対応を知ることが、自分がこれから見習いから一人前に進んだ時に、何がしか役に立つものとなるのです。
その意味では見習いの時期の過ごし方が、その後の自分の仕事との関わり方を決めてしまう部分があります。すなわち、基礎的なことを身につけることにより、その人自身がどのように力を養っていくのかが決まってしまうとも言えます。スポーツでも音楽でも、基礎練習を楽しいと思うことはまずありません。ただ同じことの繰り返しにしか思えず、飽きてしまい疎かにしがちなものです。できるだけ楽をして、ただただやり過ごしてしまう人が多いのがこの基礎練習なのです。ところが、この基礎を繰り返すことでしか得られないことがあるのです。見習いの時に感じたこと、身体に沁みついたことが、やがてエキスパートに繋がることを知るのです。この見習いの期間に、3つのシステムとの関わりを深めていくとも言えます。1つ目は、実践のコミュニティという人間集団のシステムです。2つ目は職場の配置など物理的なシステムです。そして3つ目は反復によって脳内に形成されるシステムです。“経験を積む”ことの意味はこのシステムを感覚で覚えることでもあるのです。
見習いの後の道のりは常に意外なことが起こります。そのような時に人はハッと気付くのです。応用を利かせるためには基礎ができていないと何もできないということに。そして見習いの時にこそ、いろいろな感覚を自ら駆使することによってのみ身につくことがあるのだと発見するのです。どのような世界にも、見習いの時期があり、やがて職人となり、極めればエキスパートとなるのです。エキスパートへの道に近道はありません。“見習いの時こそがカギ”であると思います。
参考文献:ロジャー・ニーボン著、御立英史訳『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ダイヤモンド社、2025年)