
No.477 「ビジョン2030」で進むサウジアラビア経済 ―銀行等の状況はいかに? ③―
今週の一句
"油田から 湧き出る力 次世代へ 中東からの 世界視線へ"
現在のサウジアラビアは、石油依存から脱却し経済の多角化など、知識集約型経済を発展させることを目指す王国の多様化戦略「ビジョン2030」を掲げており、エネルギー分野に留まらない幅広い産業の成長が期待されています。実際に非石油産業は大きく成長してきており、研究開発イノベーション庁などの国家機関が民間機関と協力してイノベーションと起業家精神の促進を支援しています。そのような中、今年に入ってからの銀行に対する格付けでは、米国の銀行の格下げが見られた一方でサウジアラビアの銀行は格上げされています。特にサウジアラビア公共投資ファンド(PIF)が出資している銀行に対してはその子会社も含めて格上げされている状況です。
「ビジョン2030」に基づいたサウジアラビア経済の成長は、銀行融資残高にも表れています。サウジアラビアの中央銀行に相当するサウジアラビア通貨庁(SAMA)のレポートによると、7月の学術研究、専門・技術サービス業に対する銀行融資残高は、51億9,500万サウジリヤル(約2,026億円)となり、前年同月の34億3,800万サウジリヤル(約1,341億円)から約50%増加しています。銀行融資残高を大きく伸ばしたもう一つの分野は、電力・ガス・水道業で、7月の融資残高は1,284億3,100万サウジリヤル(約5.0兆円)となり、前年同月の927億400万サウジリヤル(約3.6兆円)から約40%増加しています。この分野の最大の推進力は、現在1日に必要な110ギガワットの電力需要の42%を発電するために使用されている石油を、2030年までに天然ガス50%と再生可能エネルギー50%の混合に置き換えるプロジェクトで、「ビジョン2030」の一環となっています。また、投資、保険などの金融サービスの需要も高まっており、国有商業銀行、外資系商業銀行の支店、金融技術やキャッシュセンターの運営に携わる企業などへの融資も伸びています。2023年第1四半期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比で3.9%成長し、非石油活動が5.8%、政府サービスが4.9%の伸びを示しています。今後のサウジアラビア経済の発展は、リヤドを本拠地とするサッカーチームのアル・ヒラル、アル・ナスルがスーパースター選手を獲得する中、PIFがスポーツクラブに対し、投資および民営化プロジェクトを発表するなど勢いが止まりません。21世紀の世界のパワーバランス変化はここにも表れていると考えます。
中東各国の原油及び石油製品の輸出量(2022年)
出所:英国エネルギー研究所(Energy Institution)HPよりあおぞら投信が作成。